若ザル大津を放浪中 [滋賀県]
◇メス探し?住宅街で目撃27件
今年に入って大津市の住宅街でサルの目撃情報が相次いでいる。すでに20件以上が寄せられ、車のワイパーを折ったり、家庭菜園を荒らしたりと、人間の生活圏にじわりと侵入している。主に生まれ育った群れを離れた若いオスが、里や町をさまよっていると見られ、専門家は「一時的なことなので、刺激せずに見守って」と指摘する。(松久高広)
大津署によると、4月21日朝、同市三大寺の同市立瀬田南小に1匹が出現。すぐに逃げたが、駐車場の車3台のワイパーが折られていた。男性教諭は「すぐに逃げたからいいものの、子どものことを考えると、やはり怖い。いざ暴れられたら、学校では手に負えない」と話す。同月29日にも同市富士見台など2か所で、サルが路上を歩いているのを近所の住人が目撃した。
1~4月だけで目撃情報が27件寄せられ、家庭菜園のタマネギをかじった跡なども確認されている。「池で泳いでいる」「隣家の屋根にいた」「電線が揺れている」――。群れの目撃例もあるが、多くは1匹のみで、瀬田川東岸の住宅地に出没し、行動範囲が広がりつつある。
もっとも、大津市周辺の山林を含め、県内には多くのサルが生息する。県が2008~11年に行った調査によると、琵琶湖を囲む山間地のほぼ全域に「ニホンザル」が生息。125の群れを確認し、うち大津市にも13の群れがあるという。20~260匹で群れをなし、県全体では約8000匹と推測される。
目撃されているのは、単独行動のオスらしい。専門の調査会社「野生動物保護管理事務所」関西分室(兵庫)の清野紘典・主任研究員によると、3、4歳になった若いオスは冬の発情期を終えると元の群れを離れてメスを探す「ハナレザル」となることがある。繁殖期の秋以降には群れに合流しているが、夏までは単独で10キロ以上移動する例もある。
この間、人里で人間と遭遇することが増える。大津署などによると、今回目撃されているサルは体長約50センチ前後で、赤くなりきっていない顔色などから、若い個体とみられる。毎回単独で現れることや、限定された場所で何回も人前に出る大胆さなどから、同じサルの可能性が高いという。
しつこく人前に出るようなら網やわなで捕まえなければならないが、現実的には難しい。大津市鳥獣害対策室の担当者は「縦横無尽に動き回り、捕らえるのは不可能に近い」。
個体数の増減は不明だが、県鳥獣対策室によるとサルの分布域は拡大している。原因としては▽人の手から離れた果樹が増えた▽柵など獣害対策のない場所を求めている▽群れが分裂した――などが考えられるという。
サルは動きが素早く鋭い牙を持つが、人間に危害を及ぼす可能性について、清野さんは「本来は臆病な生き物」と否定的。「おそらく一時的な問題なので、過剰に反応しないでほしい」と話す。