クマ分布域、全国的に拡大 対策急務「個体数をどう管理するか」
ツキノワグマの大量出没が懸念される中、クマの分布域が平成15年から10年間に北海道や本州で拡大したことが、クマ研究者らでつくる日本クマネットワーク(JBN)の調査で分かった。全国的な分布調査は、環境省が15年度にまとめて以来。「クマがいないとされていた地域にも生息している可能性がある」として、早急なクマ対策を自治体などに促している。(寺田理恵)
■原発事故も影響?
「今年、ツキノワグマの大量出没の発生が心配されている」。JBNの調査報告書はこう指摘し、大量出没時の対策の検討を求めている。クマの餌となるブナの実が、昨年の豊作を受け、今年は周期的に凶作と見込まれているためだ。
餌を求めるクマは人里に出てくる恐れがある。特に東北地方では出没件数とブナの実りが関係しているとされ、クマの生息数の多い岩手県では3月から出没注意報を発令している。
こうした中、公表されたJBNの調査結果では、クマの分布域が人間の生活空間ぎりぎりまで広がった地域もある。調査を担当した茨城県自然博物館の首席学芸員、山崎晃司さんは「餌不足などのきっかけがあると、人の住む場所に出没して軋轢(あつれき)が起きかねない」と警告する。
調査は23年度から3年かけて実施された。それによると、ヒグマが生息する北海道で分布の拡大が確認された。ツキノワグマは本州と四国に生息しており、生息数がわずかな四国を除き、拡大傾向にあることが分かった。拡大傾向は大量出没年でない年にも見られ、定着した可能性がある。
東京都では大量出没年に分布域が森林地域の東端まで拡大しており、ほぼ限界域に達したとみられる。大都市圏に近い地域では、京都府や兵庫県で南下が見られた。
福島県では東北自動車道以東の阿武隈山地に拡大。23年の東京電力福島第1原発事故後、広い範囲で人の立ち入りが制限されているため、生息密度が上昇する可能性を指摘している。
■心理的被害
調査は、クマによる人身被害の背景を探り、軋轢を抑止するのが目的。全国規模の大量出没が起きた18年度と22年度は、100人超の人身被害が発生した。人間に利用されなくなった里山が森林に再生し、生息可能な場所が広がっている。
そこで、JBNは15年度の環境省調査以降、新たに自治体や関係機関が収集した出没情報などを取りまとめ、分布域の境界線を同省調査時と比較した。
ただ、自治体によっては出没情報がきちんと管理されておらず、担当者の交代で散逸していたケースもあったという。
山崎さんは「クマによる人身被害は大きく、クマがいるだけで子供が集団登下校を余儀なくされるなど住民は心理的被害を受ける」と指摘。「大量出没は数年に1度、起きている。分布域や個体数をどう管理するか、その区域に含まれる自治体間で協議して早急に決める必要がある」と警鐘を鳴らしている。
■春から夏も人身被害
クマをめぐるトラブルは秋に多いと思われがち。冬眠前に餌となるドングリが不足すると、餌を求めて人里に出て来ることが知られるためだ。しかし、生息数の多い地域では、春から夏にかけての山菜採りや渓流釣り、登山中などに人身被害が起きている。
クマは春から夏も活動しており、自治体の担当者らは「山菜採りなどに夢中になって、クマに気づくのが遅れる」「オスは繁殖期の夏に長い距離を移動する」などと注意を促す。釣りやハイキングで山に入る場合、クマ鈴で存在を知らせるなどクマとの遭遇を避ける対策が必要だ。
2014年6月24日
転載元:http://www.sankeibiz.jp/econome/news/140621/ecc1406211207002-n1.htm