ヒグマ出没 対症療法で立ちゆかぬ[北海道]
行楽シーズン真っ盛りの中、道内各地で昨年以上にヒグマの目撃が相次いでいる。
毎年のように公園や自然散策路が閉鎖されるようになったのは、親離れした若グマが居場所探しや好奇心から市街地近郊に出てきているからとの指摘がある。
住民の安全を考えると閉鎖は暫定措置としてはやむを得まい。だが、クマは学習能力が高く、人が近づかないとみると、さらに人里に接近してくる傾向がある。
「対症療法」で立ちゆかない時期にきたと認識すべきだ。
各種調査で、道内全体の頭数は近年、大幅に増加したと推定されている。札幌近郊には繁殖力のある複数の雌グマも居着いている。
それでも安易に駆除できない状況では、共存しつつ、人の安全を確保する発想が欠かせない。
検討すべきは、「人の生活域」と「クマの生息域」のすみ分けを明確にし、間に緩衝地帯を設けるゾーニング(区域分け)である。
福島県ではすでに導入し、一定の効果を挙げている。
具体策として、まず侵入路を断つことから始めたい。環境破壊にならぬ範囲で、クマが隠れるやぶや河畔林の伐採を進めてほしい。
昨年、度重なる侵入を受けて、札幌市南区の滝野すずらん丘陵公園が行った柵の強化は他の公園や施設でも検討の余地がある。
それで食い止められないなら、電気柵の設置や威嚇による奥地への追い立て、わなによる捕獲、追い払い専門に訓練された対策犬の導入などを組み合わせるべきだ。
対策犬は長野県軽井沢町で役立っている。
ただ、対策を立てるに当たっては実態把握が先決だ。個体数や分布状況を調査した上で、官民と専門家で具体策を練る必要がある。
一方で、事故防止には、何をおいても市民や子ども一人一人がクマの習性や遭遇時の対応を知っておくことが欠かせない。
生ごみや果樹、農作物が簡単に手に入れられる状況をつくらないことが肝要だ。ごみは当日出しを徹底し、散策路などに食べ残しを放置しないよう心がけたい。
市街地にうまみがなく、居心地が悪いとクマが学べば、出没は減るはずだ。
道は今年3月、道内全域のヒグマ保護管理計画を策定した。
クマを人里や農作物に執着させないために、住民や社会の側に意識変革を求めた点は評価できる。確実に実行に移す行程表づくりを急いでもらいたい。