野生動物とどう付き合う? 田舎暮らしサポートで研修[和歌山県]
和歌山県古座川町直見の県ふるさと定住センターで15日、野生動物の生態に詳しい同町平井の揚妻芳美さん(45)が「田舎暮らしのパートナー 野生動物とのおつきあい」と題して講義をした。同センターが開いている田舎暮らしサポート研修の本年度4回目。揚妻さんは、里山に動物が頻繁に出没するようになった理由について「里山に天然林が復活し、野生動物にとって魅力ある環境になっている」と話した。
揚妻さんは京都大学霊長類研究所で動物の生態や行動の調査研究について学び、民間企業で各地の環境政策に関わった。結婚を機に退職し、現在はヤクシカの生態研究をしたり体験学習会を開いたりしている。Iターン者や地域住民、町鳥獣被害対策実施隊の隊員ら37人が参加した。
揚妻さんは、野生動物が暮らす森林の古代から現代までの変化について、文献の記述を示しながら説明。昔から森林伐採は行われていたが、江戸時代は人口が急激に増えて建築資材の木材が大量に必要となり、大々的に行われた。そのため、里山周辺ははげ山になり、災害が多発。明治時代にも近代産業の発展による伐採で森林の荒廃が進み、戦後の高度経済成長期には森林の人工林化が急激に進んだため、野生動物が好む天然林は縮小していった。
燃料革命が起きて木材の需要が下がったことで、現代では里山が緑地化し、天然林が復活。人工林の多い山の中よりも、むしろ集落周辺の方が野生動物のすみやすい環境になっていると説明した。
里山周辺での野生動物と人間のせめぎ合いは古代からあり、江戸時代には「シシ垣」と呼ばれる壁が山と集落の間に造られたという。 揚妻さんは「現代は獣害に遭いやすい構造になっている。獣害を防ぐには、柵を立てたり怖がらせたりして、野生動物が集落に入って来られないようにすることが一番有効」と話した。
その後、センターの敷地内に設置した自動撮影カメラがとらえた野生動物の映像を見て、実際に敷地内を歩いて動物の通り道を探した。揚妻さんは側溝が野生動物の通り道になりやすいことや、柵は10センチ角の隙間があればノウサギが、15センチ角の隙間があればアナグマやイノシシの子どもが通ることができると説明した。
【野生動物がカメラに映った場所を指して説明する揚妻芳美さん(中央)=15日、和歌山県古座川町直見で】 (2014年07月16日更新)