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「豚の生食禁止」でジビエが代替品? E型肝炎、寄生虫…必ず加熱を

 厚生労働省は先月、飲食店などで豚の肉やレバーの生食提供を禁止する方針を決めた。このため、「今度はジビエ(野生鳥獣)が代替品として生食されるのではないか」と心配されている。地方の町おこしなどで新たなグルメとして脚光を浴びるジビエだが、専門家は「生食はだめ」と呼び掛けている。(平沢裕子)

■増える処理数

 ジビエは、狩猟によって食材として捕獲された野生鳥獣を意味するフランス語。フランスでは一流レストランなどで旬の食材として利用されることも多い。日本でもイノシシ肉のぼたん鍋やシカ肉のもみじ鍋があるが、これらの肉は家畜の牛豚のように供給が安定しないこともあり、一般的に食べられるものではなかった。

 しかし、近年、野生鳥獣による農作物被害が拡大。駆除対象として狩猟された鳥獣を食肉として利用するケースが増えている。

 エゾシカによる農林業被害対策で、北海道は平成22年から毎月第4火曜日を「シカの日」とし、ホテルやレストランなどでエゾシカ肉を食べてもらう取り組みを実施。18年度に9千頭だったシカ肉処理数は24年度は2万4千頭と約3倍に増えた。「エゾシカ肉はフレンチでは定番の食材。かつては野生の肉は固い・臭いと言われたが、血抜き処理など適切に調理されれば問題ない。首都圏のレストランにも出しており、おいしいと好評」(北海道エゾシカ対策課)

 やはりシカによる農作物被害が深刻な静岡県伊豆地方では、シカ肉を使った「イズシカ丼」を開発、観光客向けにPRしている。

■「新鮮=安全」でない

 一方、厚生労働省の「野生鳥獣由来食肉の安全性確保」研究班(班長=高井伸二・北里大獣医学部教授)の調査で、3年以内にジビエを食べた人の中に、刺し身やルイベ、ユッケなど生食で食べた人(延べ)はシカが1702人、イノシシで327人いることが判明。21年に滋賀県琵琶湖環境部が実施した調査でも、シカを食べたことがある人の半分弱が「生の刺し身を食べた」と答えている。

 高井教授は「野生鳥獣は日本でも貴重なタンパク源として食べてきた歴史がある。ただ、昔はこれらの肉を生で食べることはしなかった。野生鳥獣は寄生虫をはじめ、さまざまな感染病原体を持っている可能性がある。しかし、『新鮮な肉は安全』と誤解している人が少なからずいるようだ」と指摘する。

 感染病で心配されるのが劇症肝炎を起こすE型肝炎ウイルス。このウイルスは豚肉の生食でも問題となったが、イノシシの感染も多い。野生鳥獣は内臓や筋肉に寄生虫がいることも多く、生はもちろん、タタキのように外側だけ加熱し、中が生の食べ方も感染の危険があるので勧められない。寄生虫対策は65度以上で1分以上加熱し、肉の中まで火を通す必要がある。

 高井教授は「捕獲したシカやイノシシは野生の恵みでもあり、食用にするのは良い試み。しかし、豚の生食禁止後、その代替として法律で禁止されていないからと、ジビエの肉や内臓を生で食べるのは絶対にやめてほしい」と話している。

■牛の代わりに豚普及

 平成23年に起きた焼き肉チェーン店での集団食中毒事件を受け、同年10月から牛肉のユッケなど生食用牛肉の加工基準が厳しくなり、24年7月からは牛生レバーの提供が禁止された。この規制で、従来は生食されることのなかった豚の肉やレバーが生食されるようになり、厚生労働省は先月、飲食店での豚の生食提供を禁止する方針を決めた。

 16~25年の食中毒発生状況によると、最も患者数が多いのが鶏(2782人)、次いで、牛(1282人)、馬(42人)、豚(40人)の順。鶏の食中毒の原因はカンピロバクターやサルモネラ属菌が多く、腸管出血性大腸菌に比べれば公衆衛生上のリスクは小さいが、高齢者などでは死亡例もある。

 
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