【相次ぐ熊出没】被害防止へ情報共有[福島県]
熊が人を襲ったり、人家近くに出没したりするケースが県内で相次いでいる。通常は春先の山菜採りのシーズンに集中するが、今年は8月になっても熊との遭遇が続いている。行政には注意を喚起するための出没地点の周知、キャンプ客や入山者への一層の情報提供を望む。住民も熊を里に近づけないよう、生ごみの管理などの自衛策が必要だ。
今月3日、猪苗代町の畑で農作業をしていた男性が、熊に頭などをかまれ重傷を負った。4日には福島市・あづま総合運動公園内の民家園の林で3頭が目撃された。民家園には国指定重要文化財「旧広瀬座」や江戸から明治時代にかけての民家がある。隣接するサイクルスポーツ広場とともに夏休み中、親子連れでにぎわっており、けが人が出る恐れもあった。他にも各地で「道を横切るのを見た」「裏山に逃げ込んだ」などの目撃情報は後を絶たない。
県内では平成22年度から4年連続で人的被害が発生している。昨年度は9件と全国ワーストワンで、死者1人を含む14人が被害に遭った。今年は既に6件発生し6人がけがをしている。
なぜ、熊が人里近くに出没するのか。県によると、林業の衰退や中山間地の過疎化、狩猟者の減少が熊の生息域を広げたらしい。本県に限れば東京電力福島第一原発事故により、山に入る人が減少したことが影響している可能性もあるという。さらに今年は熊の餌となるブナの実の不作が予想され、人里に出没する数の増加が懸念される。
今年4月、県と市町村、警察などで設立した会津地域ツキノワグマ対策協議会は過去の出没地点や予想地点、被害を記したハザードマップを作っている。9月にも配布する予定だ。危険情報を広域的に共有する試みで、高く評価したい。中通り地方でも熊の出没は続いている。目撃情報をホームページで提供しているが、できることならマップがほしい。目撃地点の周辺に注意を喚起する看板を効果的に配置するのも手だ。
個人も出没防止策を怠ってはならない。民家が山林の近くにある場合、生ごみの管理がしっかりしていないと熊があさりに来る。出荷できず廃棄する農作物を山積みしておくと、人里に引き寄せてしまう。
熊の被害を根本から防ぐには、山と人里の緩衝地帯「里山」の復活が必要だ。そのためにも一刻も早く森林除染を進めて、林業やキノコ栽培などを営めるようにしてほしい。原発事故はここにも影を落としている。