クマ 出没多発の恐れ[山形県]
今秋、例年以上にクマが県内の人里に出没する可能性が高まっているとして、農家や自治体の関係者は警戒を強めている。林野庁が、冬眠前のクマの栄養源となるブナの実が、県内は昨年に比べて著しい不作になると予測しているためだ。この夏すでに各地の畑で農作物が食い荒らされる食害が多発しており、県や市町村などが対策に乗り出している。(菊池一真、三沢大樹)
県みどり自然課が今年1月1日~8月31日に把握した目撃情報は222件に及び、前年同期の188件を上回る。県警も目撃情報と、食害や足跡発見などの痕跡が残る「出没」情報をまとめており、その数は9月2日時点で計315件と、前年同期の1・5倍に増加。過去5年間で2番目に多くなっている。特に今年は出没情報が多く寄せられ、全体の3割近い88件を占める。
県園芸推進課は、「今年は食害が多いと聞いている。今後も続く心配がある」として、職員が農家を対象に防護柵の設置方法などを指導している。すでに尾花沢市では収穫期を迎えたスイカが食べられ、東根市では食べ頃のモモ約200個が食い荒らされた。このほか、7月下旬には鶴岡市の民家にクマが侵入する被害があった。
現状でも食害に悩まされている農業関係者がさらに懸念しているのが、本来クマのエサとなるブナの実の出来具合だ。ブナの実は脂肪やたんぱく質を豊富に含んでおり、クマにとって越冬前の重要な栄養源となっている。これが結実しないと、エサを求めて人里にクマが降りてくる危険性が高まるという。
林野庁東北森林管理局(秋田市)が毎年初夏に行っている調査では、飯豊連峰など22か所の観察地点のうち、半数を超える12か所でブナの開花が「全くみられない」と判断。このため、この秋の結実は、4段階で最悪の「皆無」と予測された。同局の笠井史宏企画官は、「ブナの結実には周期があり、昨年がやや実りの多い『並作』だったため、今年は結実が少なくなった」と分析する。
さらに懸念されるのは、クマの動きが活発になる秋に、人が襲われるケースだ。2010年10月には、体長約1メートル30のクマが長井市の中学校に突入し、職員に体当たりをしてけがをさせた。12年10月に川西町の女性がクマに襲われて7か所を骨折する事故も起きている。
食害だけでなく人的被害も心配されることから、東根市農林課は、目撃や食害が相次いだ地点を中心に、注意喚起のチラシを配布している。同課の担当者は「今後も出没することが考えられる。仮に遭遇したとしても、被害が起きないよう万全を期したい」としている。
◆早朝は外出避けて
クマの生態に詳しい東北芸術工科大(山形市)の田口洋美教授(人類学)の話「通常、ブナが少ないとクマの出没は自然に増える。クマの活動が活発になる早朝は外出を避けるほか、農作業中はラジオをつけるなど、人間の存在を知らせることが必要だ」