ドングリ凶作でクマ人里に 高山で男性襲われ死亡[岐阜県]
高山市丹生川町瓜田で六日、クマに襲われたとみられる農業原田和夫さん(74)=同市丹生川町=の死亡が確認された。県内では狩猟者の減少などもあって、毎年二割前後のペースでクマが増加していると推定され、主食のドングリが凶作の本年度は過去最多の出没件数記録を更新中。県などは警戒を呼び掛けている。
県の推計によると、ツキノワグマの県内の生息数は二〇〇四年は八百六十六頭だった。それが〇六年に千頭を超え、一一年には千九百九十七頭に。県内の山林のほぼ全域でクマと遭遇する可能性があるという。
県自然環境保全課の担当者は、増加の要因に狩猟者の減少を挙げる。クマも狩ることができる狩猟免許保持者は一九七五年度の一万四千三十五人をピークに減り続け、二〇一三年度は約九分の一の千六百人弱。これに伴い、県内のクマ年間捕獲数も七八年度の五百二十五頭から一三年度は百三十一頭にまで落ち込んだ。
生息数の分析に携わった兵庫県立大自然・環境科学研究所の坂田宏志准教授は、他の要因の可能性も指摘する。「クマが増える背景には、一般的に山林の放置がある。かつては伐採されていた木々が育ち続け、ドングリが豊富な状況になっているケースがある」と説明。増えたクマがドングリ凶作の年にえさを求めて人里に現れる構図で、山間部の過疎化に伴い出没範囲も拡大しているという。
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県自然環境保全課によると、本年度十月末現在の出没件数は飛騨と西濃、東濃地域を中心に千九十七件。過去最多だった二〇一〇年度の年間件数(八百三十三件)を既に上回った。ブナ、ミズナラ、コナラの実がそろって凶作だったことから人里に現れるクマが増えており、全体の約三割が居住区域に出没している。
同課の担当者は「クマは通常十二月から冬眠するが、えさが少ない本年度は冬場も人里に出没する危険性がある」と指摘。野生生物の生態に詳しい岐阜大応用生物科学部の浅野玄准教授は、県ホームページの出没情報を確認するよう促し「山間部の果樹園や農園では、目撃情報が多い早朝や夕方は単独行動を避けてほしい」と呼び掛けた。
(小野沢健太、松野穂波、藤沢有哉)
◆高山市は対策強化 本部設置の直後「残念」
事故のあった高山市では六日、クマ対策の強化に乗り出した。
市農務課では、高山市丹生川町瓜田の事故現場周辺三カ所に、民間団体に委託してクマ捕獲用のおりを設置。また、古い町並みの近くにある城山公園などには一斗缶と棒を置き、クマが出没した場合に観光客らが大きな音を鳴らせるようにした。高山署も周辺のパトロール強化を決めた。
市教委は、事故現場を学区内に持つ丹生川小、中学校で、六日の下校時から集団登下校を徹底。スクールバスで通学する児童、生徒はそれぞれの自宅の玄関近くまで送迎することを決めた。
高山市内では九月に男性が襲われけがをしたことから、市は十月末に熊被害対策本部を設置。目撃情報のあった場所など九十カ所に看板を立て、メールや防災無線でも情報を知らせてきた。本部長を務める西倉良介副市長は「注意喚起していただけに、犠牲者が出たのは大変残念」と悔やんだ。
(清水裕介)