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大阪にツキノワグマ出没(謎解きクルーズ) [大阪府]


大阪府内で捕獲されたツキノワグマがいると聞いた。府によると、過去にツキノワグマが捕獲された例は「記録にない」という。最近は街中にイノシシが出没し、人に危害を及ぼす例も出ている。ナニワの野生動物や自然体系に異変が起きているのだろうか。

 まずクマが捕獲された府北部の豊能町を訪ねた。昨年6月に捕獲され、今年4月から町内にある高代寺の敷地内で飼われている。名前は「とよ」。体長約1.5メートル、体重約60キログラムの大人のオス。肉付きもよく貫禄がある。

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 京都大学農学研究科講師の高柳敦さんによると、兵庫県北部から福井県にかけて「北近畿個体群」と呼ばれるツキノワグマの一群が生息する。オスは初夏、交尾のため活動範囲を広げる。今回は「恋人」を求めて大阪に迷い込んだようだ。「北近畿個体群は保護活動によって生息数が増えて活動地域が広がる傾向にある。今後、大阪府内でも出没頻度が高まる可能性があります」と高柳さん。

 実際、大阪の平地や人里に野生動物が下りてくることが増えている。一つの指標になるのが農作物の鳥獣被害額だ。大阪府内の2013年度の被害額は1億3千万円と、この10年間で約4割増えた。被害額の約4割はイノシシ、次に多いのがシカだという。

 シカといえば奈良を想像しがち。しかし、箕面市や能勢町など府北部には06年度時点で約1800匹のシカが生息すると推計されている。実は奈良公園周辺をも上回る。一部地域ではシカが「過密状態」にあり、府は年700匹以上を目安に捕獲を続けている。

 イノシシなどは市街地での出没も後を絶たない。13年には池田市で20代女性が夜、イノシシの体当たりを受けて足の骨を折るけがをした。神戸市でもイノシシによる人への危害が増えており、市は昨年からパトロールや追い払いなどを始めている。

 通常、鳥獣被害は森林の多い地域で起こる。だが林野庁によると、大阪府の森林面積は約5万8千ヘクタール(12年度)と全国で最も小さい。森林率も31%と全国で最低水準だ。平地が多い大阪でなぜ、捕獲対策が必要なほど野生動物が増えたのか。

 一つは平野部で耕作が放棄された農地が広がっているためだ。府動物愛護畜産課の堤側俊課長補佐は「耕作放棄地や、管理が行き届かない竹林が居心地のいいすみかになっている可能性がある」という。他府県との境の森林にすんでいたのが平野部の耕作放棄地まで活動範囲が広がったと考えれば、合点がいく。

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 取材するうち別の事情も見えてきた。野生動物が里に下りるのを未然に防ぐハンターの不足だ。大阪府猟友会の田中茂雄事務局長は「自治体からの捕獲依頼は増える一方で、ハンター不足は年々厳しくなっている」と危惧する。

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 もともと大阪は近隣府県に比べ狩猟の適地が狭い。活動機会が限られるため、狩猟に慣れた会員は少ない。田中さんは「ハンター同士が狩猟のノウハウを教え合う機会を増やさなくては」と懸念する。

 国は1963年、行きすぎた狩猟を防ぎ、野生動物を保護するために「鳥獣保護法」を制定した。大阪府内でも捕獲できる鳥獣、期間、方法などを定めた「鳥獣保護区」が森林地域に点在する。保護が浸透したことで次第に生息数が増え、急に捕獲に乗りだそうとしても態勢が整わない。皮肉な話といえる。

 これから、住民は野生動物とどう向き合えばいいのか。ヒントになりそうなのがニホンザルの生息地で有名な箕面市だ。観光客の餌付けなどでサルの繁殖間隔が短くなり、生息数が急増した。市は10年に悪質な餌付けに罰金を科す条例を施行。メスザルの避妊対策も進めた。一時約600匹超まで増えたサルは約340匹まで減った。

 不必要に人と関わるのは野生動物にとっても不幸だ。昨年6月に捕獲された「とよ」も、府には「野生に戻すべきだ」「野生に戻すと人に害を及ぼす」という相反する意見が寄せられ、捕獲から引っ越しまで10カ月近くを要した。

 豊かな自然と住民の安全をどう両立させるか。増える野生動物は我々に重い宿題を課しているといえそうだ。

(大阪地方部 池田拓也)

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