若手ハンター育成急務
■専門学校で実習/課題は雇用
農作物や森林に深刻な被害を及ぼしているシカやイノシシ対策を強化するため、改正鳥獣保護法が成立した。
増えすぎた野生動物の捕獲を促す狙いだが、肝心のハンターは40年前の半数にも満たない。担い手を増やすことが急務となる中、専門知識を持った若いハンターを育てる取り組みが始まっている。
「いったん掘り返した場所を、自然のように見せるのは難しいですね」。シカの足を挟むわなの上に土をかぶせながら、東京環境工科専門学校(東京都墨田区)3年の後藤康宏さん(20)がつぶやいた。
群馬県・前橋駅から車で約1時間の赤城山の中腹。シラカバで有名な山林で今月中旬、同校の実習が行われた。受講生は後藤さんと、同学年の松沢正実さん(20)。わなを仕掛ける練習をし、森林の食害の現場を見て回った。
わなはワイヤで木につながれ、木にはセンサーをくくり付けている。シカが足を挟まれて暴れると、ワイヤが引っ張られてセンサーが反応し、登録者の携帯電話にメールが送られる仕組みだ。2人は土や落ち葉、草で丁寧にわなを隠すと、棒をわなに刺して反応させ、作動の流れを学んだ。
「警戒心が弱いシカはかかるけれど、いったんわなに近づいて手前で離れる慎重なシカが映った動画もある。人間との知恵比べだ」。講師の青木豊さん(52)が説明すると、2人は真剣な表情でうなずいた。
■進む高齢化
後藤さんと松沢さんは、同校が今年度から開設した4年制の「野生動物管理専門家養成コース」に在籍。同コースは、シカやイノシシなどの捕獲技術を持ち、被害対策の立案ができる人材の育成を目指しており、銃猟免許やわな猟免許も取得してもらう。同校によると、鳥獣被害対策について体系的に学ぶコースは珍しいという。
幸丸こうまる政明校長は「(鳥獣対策を担う)猟友会メンバーは高齢化している。野生動物の生態を熟知し、効果的な管理法を考えて、現場でも働ける即戦力を輩出することが求められている」と設置の狙いを語った。
環境省によると、狩猟免許の所持者はこの40年間で半減し、高齢化が進んだ。1975年度は51万8000人で、60歳以上は9%だったが、2011年度は所持者が19万8000人に減少する一方、60歳以上は66%に上った。
農林水産省によると、農作物の被害額は調査を始めた99年度以降、200億円前後で推移している。12年度は230億円で、シカ、イノシシ、サルによる被害が約7割を占めた。同省はシカやイノシシなどの捕獲者に、1頭あたり8000円を上限に経費を払い、捕獲を進める仕組みなどを設けたが、若いハンターの確保は喫緊の課題だ。
業者参入に可能性
改正鳥獣保護法では、わな猟などの免許取得年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げるなど、担い手育成に向けて要件を緩和した。
環境省は12年度から、ハンターの役割を伝え、わなの実演などを行うフォーラムを各地で開催。約3800人が参加し、13年度の来場者アンケートでは64%が20~40歳代だったが、同省の担当者は「狩猟はもともと趣味の位置付けで、ハンターで生計をたてるのは難しい」と語る。同校の担当者も「就職先には自治体や、わなの監視などを行う警備会社が想定されるが、雇用を生む土壌は固まっていない」と課題を口にする。
「狩猟管理学研究室」を4年前に開設した酪農学園大(北海道江別市)の伊吾田宏正准教授は「現状では専門知識を生かす職場が民間にも公的機関にも少なく、意欲のある若者を十分に生かせない」と指摘。同法では捕獲などの専門業者の認定制度も導入しており、「捕獲ビジネスが成長すれば、ハンターの需要が高まり、担い手確保が進む可能性もある」と期待した