期待と懸念入り交じる 厚労省がジビエで統一基準作り
厚生労働省が始めた野生鳥獣肉(ジビエ)の衛生管理に向けた全国統一の基準作りが、自治体やジビエを扱う飲食店などから注目を集めている。これまで衛生基準は地域によってばらばらで、狩猟者が自己流で放血や内蔵処理をしているケースもあり、安全性の確保が課題となっていたからだ。ただ、現場からは「規制が強化されれば、狩猟者の負担は増す」「ジビエ振興の視点に立ってほしい」といった注文も出ている。 同省が10日、開いた初会合は、ジビエの流通量が増え、政府として有害鳥獣の捕獲を大幅に増やす施策を進めていることが背景にある。衛生管理の基準作りは、国として初の試みとなる。 ・安全性、均質化を歓迎=飲食店・流通業者 こうした国の取り組みにジビエを扱う飲食店からは期待の声が上がる。東京都 内でジビエ料理店を複数 経営する(株)夢屋(渋谷区)の中尾健児統括店長は「都道府県によって衛生基準や処理方法が違い、品質がまちまち。高品質のジビエを安定して入手するのは難しく、統一基準があれば、その手間が省ける」とみる。 東京都港区でジビエ料理を提供する「ボワヴェール」オーナーシェフの川口かずのりさん(40)も「基準がなく、どのように処 理したのか明確でないジビエも出回っている。ジビエの一部で品質が悪ければ、全体のイメージが悪くなることもある」と指摘、早急な基 準の策定を求める。 ジビエの衛生管理基準は現在、北海道や長野県など先進地域で独自に設定している。ただ、地域によって屋外での解体処理を認めるかどうかなど、ルールが違うのが実態だ。このため、検討会では「狩猟者による解体処理や自家消費も、何らかの法規制が必要」と規制強化を求める声も出ている。 そうした動きに懸念の声も上がる。大日本猟友会は基準の策定に理解を示す一方、「牛や豚のような厳しい基準はジビエにはそぐわない。厳しくなった基準に対応できず、狩猟や流通をやめてしまうハンターもいるのではないか。その結果、流通量が減ってしまう恐れもある」(広報担当)と心配する。 ・現場の実態踏まえて=狩猟者 北海道新冠町の狩猟者で、エゾシカの処理加工をする相樂正博さん(65)は「北海道は全国に先駆けて2006年にジビエのガイドラインを策定した。厳しい基準を徹底するには相当、時間がかかった。統一基準を作っても、すぐに現場が衛生管理を徹底するのは難しいだろう」と指摘する。 自治体も問題を提起する。ジビエの処理施設を昨年6月に建設し、加工に取り組む岡 山県美作市は「施設を建設した矢先に、基準ができて施設が使えなくなってしまうのはなんとしても避けたい。既存の施設を活用できるような基準でないとコストが掛かり過ぎてしまう」(農林業振興課)。他の自治体からも「肉の流通に厳しい基準を作れば、直接飲食店に卸そうと考えるハンターが増え、かえって質の悪いジビエが出回るのではないか」とみる。 どんな基準が最も望ましいのか。ジビエの病原体調査や安全基準について研究する北里大学の髙井伸二教授は「安全性の確保は絶対だが、農山村の現場を踏まえた実効性のあるルールを示す必要がある」としている