抜本策なく悩む自治体 クマ出没が急増[福井県]
県内でクマの出没件数が増えている。県に寄せられたクマの痕跡や目撃情報の件数は、ここ五年間で最多だった二〇一〇年度をも上回るハイペース。幸い人がけがをするなどの被害はないが、抜本的な解決策はなく、自治体も頭を悩ませている。
■最多ペース
県自然環境課によると、ここ五年間で最多だったのは一〇年度の八百四十一件で、そのうち四~八月は百十六件。本年度は二十二日現在で百五十三件に上り、一〇年度八月末の数字をすでに四十七件も上回る。一一、一二年度との比較では年間件数さえも超えている。
出没の範囲も広がり、これまで目撃がなかった文殊山付近の集落にも出没している。
福井市有害鳥獣対策室は「人身被害防止に力を入れるしかない」と情報発信に力を入れる。
市は通報を受けると、近隣の学校、福祉施設に出没を知らせるため関係課に連絡。防災無線で住民にも注意を呼び掛ける。インターネットも駆使し、市ホームページやSNSにも情報を掲載する。
同時に、現場にも向かう。住民から目撃状況を聞き取り、捕殺が必要かなどの検討材料にする。
出没が集中した六月は、早朝と夕方に出没しそうな場所をパトロールした。橋本龍一室長は「冬眠前の秋口には、餌を求めてさらに多数のクマが里付近に出る可能性がある」と心配する。
ツキノワグマは、国際希少野生動植物種に指定され、保護対象となっているため、県は里近くに出没し、人に危害を加える恐れのあるクマのみを捕殺する方針を示している。

■原因
県自然環境課は、ここ三年ほどドングリの実りが良好で、クマが繁殖し、個体数が増えたためではないかと分析。山際の集落で耕作放棄地が増えたこともあり、クマの生息域が拡大。目撃情報が増加する一因になっているとみる。
一般に、餌となるドングリが豊作だった翌年に不作になると、繁殖したクマが餌を求めて里へ出没しやすくなると言われる。実のなるミズナラ、コナラ、ブナなどの広葉樹を山奥に植えることで、里への出没を防げる可能性もある。
ただ、県の民有林二十七万ヘクタールの大半が林業用のスギなどの針葉樹。県産材活用課の担当者は、「これだけ広い森を植樹ですぐに変えるのは無理がある」と言い、抜本的な対策がないのが現状だ。
■対策
県自然環境課の担当者は「住民に注意してもらうしかない」と話す。鈴を持って歩くことで自分の存在をクマに知らせたり、早朝や夕暮れの薄暗い時間に山に入らないなど自己防衛の重要性を説く。
もし、クマに出合ってしまった場合はどうするか。「大声を出したり、走ったりしてクマを驚かせてはいけない。近くにクマがいることに気付いたら、クマに背を見せず、ゆっくり後退するべきだ」という。
「何より、生ごみを放置せず、庭先のカキやクリを早めに取るなどクマを誘う要因を取り除くことが重要」と、注意を呼び掛けている。