ツキノワグマ:分布域、人の生活圏に迫り被害増加 [石川県]

ツキノワグマに人が襲われる被害が近年急増し、2000年以降は数年おきに年間死傷者が100人を超えている。中山間地域の人口減少に伴い、クマの分布域が人の生活圏にまで拡大していることが一因とみられる。5月には、三重県が捕獲したクマを隣の滋賀県多賀町に連絡しないまま放し、同じクマかは不明だが10日後に女性(88)が襲われ重傷を負う被害が発生。専門家は都道府県単位にとどまらない情報共有の重要性を訴えている。
環境省などによると、1980年代の平均年間被害者数は12人、90年代は21人だったが、2000年代は66人、10年代は94人に増えた。ドングリなどの餌が不作になるサイクルに合わせて数年おきに大量出没しており、その年に当たった10年度は死傷者が過去最悪の147人、14年度も118人に上った。
クマ研究者らで作る「日本クマネットワーク」代表の坪田敏男・北海道大獣医学研究科教授によると、里山で人間の活動が減り、クマの分布域が人の生活圏のすぐ近くまで迫っている。これまでいないと思われていた場所に出没する例が全国で増えている。
5月に三重県で捕まったクマは、北陸や岐阜、滋賀に生息する「白山・奥美濃地域個体群」に属するとみられ、分布域の拡大を典型的に示しているという。坪田教授は「生息が確認されていなかった自治体でも、クマに対する知識や対策が必要」と警告する。三重県のクマと多賀町で女性を襲ったクマが同一かどうかは、同県と同町がDNA鑑定を進めている。
ツキノワグマの生息数の詳細なデータはないが、個体数増加の背景には、西日本で一時絶滅が危惧されたことなどから、各自治体が約20年前から射殺しない傾向が強まったことがあると指摘する研究者もいる。捕獲したクマは、再び人に近付かないよう唐辛子成分入りのスプレーや爆竹でおびえさせてから放す「学習放獣」や「お仕置き放獣」が一般的になっている。
「地域個体群」と呼ばれるクマの群れは複数県にまたがって生息するが、環境省によると、共通の保護管理計画を運用し連携しているのは広島、島根、山口の3県だけという。野生動物のコンサルタント会社「野生動物保護管理事務所」(東京都)の片山敦司・関西分室長は「地域個体群の実情を把握して自治体が連携し、情報共有することが被害防止や保護につながる」と話している。【石川勝義】