野付半島 外来バチ急増 目撃個体数6年で11倍 東京農工大など調[北海道]
【別海、標津】野付半島で特定外来生物のセイヨウオオマルハナバチが急増していることが東京農工大などの調査で分かった。2007年と13年を比べると、平均目撃個体数は約11倍、ハチの総個体数に占める割合は2・5%から25・3%に拡大。専門家は「このまま放置するとセイヨウの増加が加速し、生態系に影響する」と危惧する。しかし、新たに開発されたセイヨウの画期的な駆除法は、使用する農薬の安全性などに疑問の声が上がり、導入のメドは立っていない。
同大大学院農学研究院の井上真紀講師(昆虫生態学)らが07、11、13年の春から夏にかけ、別海町と標津町にまたがる同半島先端部―基部の8地点で、花に飛んでくるハチの数を1日30分間計測する定点調査を行った。
調査員1人当たりの1日平均目撃個体数は、セイヨウが07年2・8匹(総個体数の2・5%)、11年5・5匹(同5・7%)、13年30匹(同25・3%)と急増。一方、その生態がセイヨウと類似する在来種のエゾオオマルハナバチは07年36・4匹(同32・9%)、11年7・5匹(同7・8%)、13年5匹(同4・2%)と減少した。希少種のノサップマルハナバチも07年4・2匹(同3・8%)、11年3・75匹(同3・9%)、13年1匹(同0・8%)と減少傾向にある。
セイヨウはハウス栽培のトマト受粉のため導入されたが、逃げ出し野生化。旺盛な繁殖力で在来種を脅かすほか、在来種に花粉を運んでもらっている希少植物の蜜を盗み、繁殖を阻害するなど、生態系に大きな影響を与える可能性がある。
従来は網で1匹ずつ捕まえる非効率な駆除法しかなかったが、捕獲した働きバチにエトキサゾール(商品名バロック)というハダニやアブラムシ駆除用の市販の農薬を塗布し、帰巣させると次世代の繁殖が抑制される新手法を国立環境研究所生物・生態系環境研究センター(茨城県つくば市)が開発。同研究所のハウス内では効果が確認され、この夏にも野付半島で初めて野外実験を行う方針だった。
しかし、同研究所と共同研究を進める井上講師が今月15日、地元で住民や関係機関に新駆除法を説明したところ、一部の出席者から「農薬が他の生物の遺伝子に影響しないか」「薬品が安全とのデータが少なく、納得のいく合意形成が得られるまでは進めるべきではない」といった反発の声が上がり、調査実施への合意は得られなかった。
井上講師は、薬品を千倍に希釈することや、米国のデータなどから昆虫類や動物プランクトンの幼虫・幼体には影響があるものの、人や鳥獣に対する安全性は高いことなどを説明。長年セイヨウの駆除活動を行う参加者からは「取っても取っても増えていく徒労感はある。農薬だからと一概に否定するのではなく、川や用水路に直接捨てないなどいかに安全に使っていけるかが大事では」と実験に前向きな意見も出た。
井上講師は「野付でセイヨウの増加は著しく、対策は急務。このままでは希少種のノサップもいなくなってしまう。ただ、地元合意なしでは実験は難しく、安全性を示すデータを集め、あらためて説明の機会を持ちたい」と話している。(伊藤美穂