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獣肉料理ジビエ、なぜブーム?取り扱い飲食店続々、衛生基準普及で全国的に流通が確立

 ジビエとはフランス語で、狩猟によって捕獲された野生鳥獣の食肉を意味する。主にフレンチレストランやイタリアンレストランのメニューで見かけるが、日本でも古来猪肉を使用したボタン鍋や鹿肉を使用したモミジ鍋が親しまれてきた。日本では猪肉や鹿肉を使用した料理は、自然豊かな地方で振る舞われる“郷土料理”のイメージが強いだろう。しかしここ数年、東京都内でもこれらを提供する飲食店が増えてきているのだ。

 例えば、ハンターでもあるオーナーが入手した獣肉をリーズナブルに楽しめる「ジビエ猪鹿鳥」が、2010年9月、高円寺にオープン。11年3月にはジビエ居酒屋を掲げる「米とサーカス」が高田馬場に、13年12月にはその2号店となる、ジビエをはじめとしたさまざまな肉料理を提供する「パンとサーカス」が新宿にオープン。さらに13年2月にジビエを焼肉スタイルで楽しめる「焼きジビエ罠」が神田に、14年3月にはその2号店の「焼ジビエ罠 炭打」が新橋にオープンした。

 このように、5年ほど前からジビエを楽しめる飲食店が都内でも続々とオープンしている。これに加え、ジビエを提供するフレンチレストランやイタリアンレストランも増えてきているようだ。

●「信州ジビエ衛生ガイドライン」がジビエブームの発端

 では、なぜジビエがブームになってきているのだろうか。そこで、長野県の山あいにあるフレンチレストラン「オーベルジュ・エスポワール」のオーナーでもあり、日本ジビエ振興協議会代表の藤木徳彦氏に話を聞いた。 「04年に長野県の農政課から『最近、冬の長野県を訪れる観光客が減っているので、県内のシェフのために勉強会を開いてほしい』との依頼がありました。毎冬に私の店で提供していたジビエがお客様に好評なので、勉強会のメニューにジビエを取り入れたのですが、保健所から『ジビエをメニューから外すように』と指導されました。

 それは、ジビエの取り扱いにはグレーな部分があるからなのです。その頃はジビエの流通が確立しておらず、直接知人の猟師にお願いして鹿肉や猪肉を譲ってもらっていたのですが、猟師が行っていいのは放血までです。毛皮を剥いだり内臓を取るのは獣肉処理施設の仕事とされており、それを猟師が行うと食肉処理法違反となるのです。

 とはいえ、あまり保健所が厳しく取り締まってしまうと日本の狩猟文化に波が立ってしまうので、今まで黙認されていました。その保健所の職員はそのような事情を知らない若い方だったらしく、法律に従って指導してきたのです。この職員の取った行動は間違っていませんが、これに従ってしまうと私の店でもジビエを取り扱えなくなる可能性がありますから、当時の長野県知事・田中康夫氏に『なぜ輸入物のジビエが流通しているのに国産はダメなのか』と質問のメールを送りました。すると田中氏が力を尽くしてくださり、保健所から許可が下りました。その結果、勉強会は無事に終わりましたが、ルールがあやふやのままでは信州ジビエが普及しないと考えまして、『信州ジビエ衛生ガイドライン』を県と共に作成し、ルールを明確化させました」(藤木氏)

「信州ジビエ衛生ガイドライン」を作成したことで、猟師たちも適切な肉の処理と流通を認識できるようになったという。

「この長野県の取り組みが全国的にも認められ、滋賀県や山梨県でも衛生ガイドラインの作成を手伝うことになりました。これにより、5年ほど前は獣肉処理施設の数が全国でも100カ所ほどだったのが、今では約250カ所にまで増えました」(同)

 今までは猟師に知り合いがいれば直接獣肉を譲ってもらえたが、処理施設を通すようになったことで、誰でも獣肉を手に入れられるようになった。このような取り組みが全国的に広がったことで、都内の飲食店でも獣肉を取り扱いやすくなり、ジビエブームへとつながったということなのだろう。

●ジビエ普及で鳥獣被害の抑制に期待

 このジビエブームは、野生鳥獣による農林水産業への被害を抑制する効果も期待されている。農林水産省の発表によると、12年度の全国の野生鳥獣による農作物被害額はおよそ230億円にも上るという。さらに、その被害額の半分は鹿と猪によってもたらされている。

 しかし、現状ではジビエブームによって鳥獣被害を減らすことはなかなか難しいと藤木氏は語る。

「長野県内での鹿の適正頭数は3万5000頭といわれています。しかし、現在は15万頭ほど生息しています。そして、長野県が1年間に捕獲している鹿の数は2万頭で、そのうち食肉として利用されているのは7%で、93%は山に捨てている状態です。捕獲数に対して食肉利用が20%ぐらいになれば、肉の販売利益を被害対策や狩猟費用にまわすことができ、事業サイクルができあがります。現在、最も食肉利用が進んでいる北海道でも14%ほどですので、まだまだ改善の余地があります」(同)

 現状では、どこの獣肉処理施設も冷凍庫の中に獣肉の在庫が残っているそうだ。とはいえ、ジビエブームはまだまだ始まったばかり。今後、ジビエを取り扱う飲食店がさらに増えれば、鳥獣被害を抑制することにつながるかもしれない。

 
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