自由求め?2メートル柵の外へ 森林公園の高齢シカ[愛知県]
愛知県尾張旭市の県森林公園で1頭だけ飼育されていた雌のニホンジカ「ユキちゃん」(15歳)が今月5日から行方不明になっている。名古屋・守山署の調べでは、誰かが柵の中に入って連れ出した形跡はなく、自力で脱走した可能性があるという。高齢のユキちゃんが高さ2メートルのフェンスを自力で跳び越えたのか?
飼育されていたのは、同園センター広場の一角で、縦34メートル、横16メートルを高さ2メートルのフェンスで囲ったスペース。5日午前9時ごろ、餌やりに来た女性職員が、ユキちゃんがいないのに気づいた。出入り口は二重扉になっており、施錠してあった。前日午後には異常はなかった。
職員から通報を受け署員が現場を調べると、フェンス上部など数カ所にユキちゃんの毛が付着。何者かが囲いの中に侵入したり、争ったりした形跡はなく、フェンスの外には囲いの中の土が付着したシカの足跡が見つかった。
県林務課によると、ユキちゃんは1998年9月生まれ。シカの寿命は野生で15~18年とされ、15歳10カ月のユキちゃんは高齢だ。県担当者は「自ら逃げたとは考えにくい」と言う。公園の指定管理者「ウッドフレンズ」の統括責任者松本哲男さん(67)も「フェンスは、跳び越えられる高さではない」と脱走説に否定的だ。
一方、岐阜大野生動物医学研究室の鈴木正嗣教授は「能力的には不可能ではない。前脚がフェンス上部にかかれば、跳び越えることはできる」と指摘する。ただ、「長年飼育されていたとなると、よっぽど跳び越える気にならないと。逃げる動機がない」とも。
松本さんによると、ユキちゃんは臆病でおとなしい性格だが、公園内には野生のシカが出没する。フェンスの外側に魅力的な雄がいて引き寄せられたのか。ニホンジカを21頭飼育している岡崎市東公園動物園の担当者は「その可能性はゼロではないが…」。繁殖期は9~10月で時期的にはずれがある。
県担当者は「ユキちゃんは人に危害を加えることはない。見つけたら脅かさずに連絡をしてほしい。早く戻って来て」と話している。県などは園内の巡視を強化し、チラシを園内に張って情報提供を呼び掛ける。問い合わせは森林公園管理事務所=電0561(53)1551=へ。
<愛知県森林公園の動物> 1934(昭和9)年開園の9年後から園内整備の一環としてシカや猿などの飼育を開始。シカは多いときで10頭前後いた。レクリエーションや情操教育の一環だったが、時代の移り変わりとともに来園者のニーズが変化し、予算のスリム化も求められる中で飼育動物は次第に減り、ユキちゃんを残すのみとなっていた。
(中日新聞)