信州・野生の横顔:ニホンジカ 夕刻の登山道を闊歩[長野県]
シラビソ林を行く薄暗い登山道で、先を歩く何者かの気配を感じた。前方を見ると、なんとニホンジカがいる。こちらを振り返り、キョトンとした表情を見せた。頭には大きな角。雄の成獣だ。6月半ばの夕方、長野・山梨県境の奥秩父主脈の縦走路でのこと。
写真を撮ろうと近づくと、雄は慌てて駆け出した。その先にもう1頭、雌がいた。2頭は登山道から森林が密生する長野側斜面を駆け下りていった。標高は約2500メートル。「こんな高所にも鹿が現れるのか」と驚いた。奥秩父は主稜線(りょうせん)まで森林が覆う。登山者の多くが下山した夕刻、安心して闊歩(かっぽ)していたのだろう。
その後、大弛(おおだるみ)峠(2365メートル)近くの長野側の林道でも、道路脇の斜面に鹿がいるのを見つけた。時々顔を上げて周囲を警戒しながら、下草を食べていた。車で川上村の登山口に降りるまでの間にも何度か目撃した。
奥秩父では1995年、東京・埼玉・山梨3都県境の雲取山近くで鹿に出合ったことがある。90年代末には野生動物研究者から「鹿が増えている」という話を聞いた。その勢いは今、長野側を含む奥秩父全域に及んでいるようだ