アツモリソウ食害防げ 美ケ原高原に電気柵[長野県]
松本市郊外の美ケ原高原に自生している希少種のアツモリソウをニホンジカの食害から守るため、林野庁中信森林管理署(松本市)は二十九日、自生地一帯に電気柵を張り巡らせ、通電を始めた。
高山植物の保護のため、美ケ原自然環境保全協議会が五月、思い出の丘や王ケ頭など三カ所に電気柵を設置したが、中信森林管理署が独自にアツモリソウ保護に取り組んだのは初めて。電気柵を設置したのは、ともに国有林内で、標高千八百メートルの千六百平方メートルと、キバナアツモリソウも自生する標高千九百メートルの千二百平方メートルの二カ所。高さ一・八メートルの木杭(く)を四方に打ち、四層に電線を巡らせた。
ラン科の多年草で大きな花を咲かせるアツモリソウは「野生ランの王者」と形容され、一九七〇年代から盗掘されて激減。環境省のレッドリストで絶滅の危機が増大している「絶滅危惧2類」に指定され、県のレッドリストでも「絶滅危惧1A類」と野生での絶滅の危険性が極めて高い種とされている。
中信森林管理署の二〇〇九年の調査によると、今回標高千八百メートルに設置した電気柵内に当たる地域には十数株のアツモリソウが群生していた。それがここ数年でシカによる食害が急速に広がり、ほんの数株だけに。このため県など関係機関と調整し、電気柵の設置、通電に踏み切った。
吉野示右署長は「アツモリソウを増やすことは難しい。盗掘よりシカによる食害被害は甚大で、今こそアツモリソウを守らないと。美ケ原高原の良さも損なわれてしまう。観察しながら、パトロールの力を入れたい」と話した