境内の草花をシカがパクッ 大津・石山寺など獣害悩む[滋賀県]
大津市内の寺や神社で、野生のシカが観賞用の花の若芽を食べたり庭園の木の枝を折ったりする被害が相次いでいる。通常であれば駆除や捕獲をするところだが、寺や神社には「殺生禁止」の教えがあるため、関係者は頭を抱えている。
紫式部が「源氏物語」をしたためたとされる石山寺では十年ほど前から、境内に水を飲みに来るシカによる食害が目立つように。一面に咲き誇ったアジサイは枯れ、他の木も低い部分の葉がなくなった。寺はオオカミや虎の臭いがする薬剤をまくなどしたが、三百平方メートルのハナショウブ園を電気柵で囲った以外、効果があったとは言いがたい。
石山寺などで剪定(せんてい)を手掛ける庭師の遠江(とおのえ)隆行さん(56)は「若い芽はほとんどやられてしまい、元通りになるには時間がかかる」と嘆く。境内の木々を見ようと関東から訪れた人が、がっかりしていたのを見たこともある。
食害を止めるには狩猟が最も効果的だが、寺に伝わる「縁起絵巻」は、寺周辺で猟をした人が罰せられる様子を描き、殺生禁止を明示。シカに手をかけるのは教えに反する。
市鳥獣害対策室によるとシカは山間部を中心に各所に出没。山間部の開発が進み、えさが減ったのが一因らしく、観光地として知られる比叡山延暦寺や三井寺など他でも似たような問題がある。通常は市がハンターに猟を依頼したり、わなにかけて処分するが、神社仏閣の敷地や周辺では「難しい」(担当者)。三井寺のある僧侶は「供え物のキクなどを食べる被害もある。何とかしたいが、どうにもできない」と打ち明ける。
市は神社仏閣と無関係な土地での捕獲に力を入れたり、防護ネットを張って被害を食い止めたり。市内で駆除したシカは二〇一二年度には六百四十三頭だったが、一三年度には千四百頭程度まで増えた。
それでも根本的な解決には至らず、いたちごっこは続く。「シカは生きるためにやっているので仕方がない部分もある」と庭師の遠江さん。石山寺では今後、電気柵のほかに金網を設置したり、植える位置を工夫していくつもりだ。
奈良市の有名な観光地、奈良公園もシカの食害はある。市内のシカは国の天然記念物で、傷つけることはできない。県の「奈良公園の鹿相談室」によると、観葉植物の周辺に防護ネットを張ったり、シカが好まないナンキンハゼを多く植えるなどしているという。
(大津支局・山内晴信)