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『料理家ハンターガール奮戦記』井口和泉著

命が食べ物に変わる瞬間

 ふわふわの肩下まである栗色の髪が似合う、かわいらしい女の人。表紙に写る著者の印象から、狩猟という言葉は連想されない。森ガール(死語か)までは思い浮かぶけど、まさか獣を仕留めるハンターガールだなんて。本書はフレンチの料理人である著者、井口和泉さんがジビエに興味を持ったことがきっかけで突き進むことになった「狩猟」の道について書かれたエッセーだ。

 そもそもジビエって何ぞや。最近では書店に並ぶ料理本でこの文字を見かけることも増えたけど、いまひとつ浸透していないように思う。少なくとも私には浸透していない。

 「ジビエとは狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味する言葉(フランス語)で、ヨーロッパでは貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化です」(特定非営利活動法人日本ジビエ振興協議会ホームページより)。ちなみに日本では11月15日から2月15日まで狩猟解禁となるので、ジビエは冬限定のごちそうなんだとか。

 文体はふわふわ栗毛の森ガールの印象と違わず、やわらかく読みやすい。思わず「虫も殺さぬ」という表現をしたくなってしまうが、彼女は狩猟女子だ。タヌキやイノシシの命を奪い、食べる彼女のエッセーを読み進めていると、自分の中にある「生き物を殺すことは野蛮」という考えに気付かされる。

 幾度となく繰り返されてきた「いただきます」と「ごちそうさまでした」。私は命をいただいていたつもりになっていただけだった。食べる者、生きる者として、おいしいものが食べたいという野蛮な欲望を持つ者として、私には命と向き合う経験が、覚悟がまだまだ足りない、そのことを教えてくれた一冊だ。

 (朝日新聞出版 1500円+税)=アリー・マントワネット

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アリー・マントワネットのプロフィル

 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。

(共同通信)

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