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森林除染、大半が手つかず イノシシなどの一部出荷制限続く [栃木県]


文部科学省が11年10月に行った航空機でのモニタリング調査を元に、環境省は県内の森林の汚染状況を推定した。空間線量は12・1万ヘクタールで年間1~5ミリシーベルト、23・8万ヘクタールが1ミリシーベルト以下とされた。今も汚染の実態は不透明なまま、森の恵みに影響が表れ続けている。

 那珂川町で狩猟歴40年余の小高公平さん(73)は「増えるイノシシをどうにかしてほしい」と農家に要請され、本業の造園業の傍ら、わな猟でイノシシを捕獲し、町内にある県内唯一のイノシシ肉加工施設に納めている。「俺はこの年だし、震災後も気にせず食べているけど、子どもや女性は放射能が心配だろう。肉をあげにくくなったよ」

 11年9月、県内の複数の自治体で捕獲されたイノシシから、1キログラムあたり500ベクレルという食肉の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出され=表=、出荷制限になった。

 翌年4月から肉や野菜など一般食品の基準値は1キログラムあたり100ベクレルに厳格化。各市町のイノシシ肉のモニタリング調査では、14年度も26頭のうち3頭が基準値を超えた。県は、基準を超えた個体が確認された地域では、野生鳥獣の自家消費を控えるよう呼びかけている。

イラスト:ALTタグ

民家近くに小高公平さんが仕掛けた箱わな。後ろの茂みがイノシシの繁殖地だという

 イノシシの生態を研究する宇都宮大学の雑草と里山の科学教育研究センター講師・小寺祐二さんは「イノシシは野生動物の中でも特に長期間にわたってセシウムに汚染されやすい」。1986年のチェルノブイリ原発事故を受けた研究でもそう指摘されたという。

 「イノシシがエサを食べる際、セシウムが付着した土を口にしている可能性がある」と小寺さん。イノシシは秋や冬、地中に埋まるキノコの仲間やクズの根などをエサとすることが多く、「放射能濃度は夏に下がり冬に上がる」と話す。

 那珂川町は頭を抱える。同町和見のイノシシ肉加工施設は09年の開設以来、猟師がわなで捕獲したイノシシを県内外の飲食店などに「八溝ししまる」のブランド名で卸してきた。震災後、全国でいち早く全頭検査に踏み切り、県内では同施設で加工された肉だけが出荷を認められている。

イラスト:ALTタグ

放射性物質検査をクリアしたイノシシ肉。パックに個体管理番号が印字され、いつどこで捕らえたイノシシかが追跡できる=いずれも那珂川町

 福島泰夫町長は「イノシシ肉の人気が高まりだした時の被災だった。今冬は施設で受け入れたイノシシの約7割が1キログラムあたり100ベクレルの基準を超えて出荷できない」と明かす。

 昨年4~9月は123頭のうち出荷できなかったのは4頭だったが、今年は4日までに検査した31頭のうち23頭が基準を超え廃棄処分になった。福島町長は「処分代などで運営は苦しいが、有害鳥獣を食べて減らそうと始めた取り組み。全頭検査と品質管理を徹底し、安全なものは売っていきたい」と話す。

 ■「移染」の実用化これから

 那珂川流域の森林で放射性物質のモニタリング調査を行う宇都宮大農学部森林科学科の大久保達弘教授(森林生態学)は「セシウムの濃度は原発事故当時の初期沈着量で決まり、今はほとんど検出されないところもある」と述べた上で、「県内では比較的初期沈着量が多かった那珂川上流域の土壌は、今も線量が高い状態が続く」と説明する。

 大久保教授によると、震災直後に比べ、落ち葉などが腐った林床の有機物層のセシウムの濃度は、14年平均値で2割以下に減った。とはいえ、指定廃棄物の基準値である1キログラムあたり8千ベクレルを超える場所もあるという。

 汚染度の高い林床の有機物層を取り除けばセシウムの濃度は下がるものの、引き換えに森林の生態系は破壊されてしまう。

 横浜国立大学や宇都宮大学などが共同で、セシウムを吸収しやすい樹木や微生物の特性を生かし、土壌の汚染物質を集めて捨てる「移染」の研究を進めている。実用化はこれからだ。

 林床の放射性セシウムは有機物層の下の土になった部分に移動し始めているという。「今後も森林、特に里山林のモニタリングを継続し、慎重に見守っていく」と大久保教授。セシウム137の半減期は30年。まだ26年ある。(岡野彩子)

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