現場発・上州リポート:大物猟に同行 過酷な役目「勢子」体験 下仁田のグループ「動物との駆け引き魅力」 [群馬県]
「ズドーーン!」。山あいに銃声がこだました。猟犬に追われたシカが木陰から飛び出し、猟師が1発で仕留めた。体長約110センチ、体重約60キロの雌のニホンジカ。猟師がナイフで腹を割き、その場で内臓を取り出した。狩猟解禁から2日目の16日、下仁田町の狩猟グループに同行した。【田ノ上達也】
イノシシやシカ、クマを狙い撃つ「大物猟」は、獲物を追い込む「勢子(せこ)」と、銃で撃つ「射手(しゃしゅ)」が役割を分担する。私が体験した勢子は、山の地理や動物の生態に関する深い知識と、相当な体力が求められる過酷な任務だった。
午前8時半、下仁田町西野牧の猟場に到着。この日は40〜70代の約20人が参加した。2番目に若い勢子、小泉隆幸さん(47)=下仁田町本宿=に案内され、山林に入った。
「まだ新しい。もの(獲物)が歩いた跡だよ」。小泉さんが地面を指さした。目を凝らすと、落ち葉の間にイノシシのひづめの跡。「こういったわずかな手がかりから、ものが進んだ方向を推測するんだ」。小泉さんの表情が引き締まった。
「素人向けの歩きやすい道」を選んでくれたというが、山肌の傾斜は最大45度。ひょうひょうと山頂を目指す小泉さんの背が徐々に遠のく。四つんばいになって懸命に追った。猟開始から10分で息切れした。記者はグループのお荷物になりかねない。かたじけない。山中を自在に歩き回る猟師たちの驚異的な体力に頭が下がった。
山頂付近で数人の勢子が互いに大声を張り上げ、獲物をふもとへ追い込む。待ち受ける射手が狙いを定め、命中させる。グループは半日で雄ジカ2頭を含む計3頭を仕留めた。最後は私もシカに縄をくくりつけ山から下ろす作業を手伝った。
県によると、10月末現在の県内の狩猟登録者は3411人で、1970年の1万8947人をピークに年々減少傾向。若者の趣味の多様化や、猟師の高齢化が主な要因という。ニホンジカなどの野生鳥獣による農林業被害が増える一方、2011年3月の東京電力福島第1原発事故後は県内のシカやイノシシから基準値を超える放射性物質が検出されているため、肉を出荷できない。この点も狩猟離れに拍車をかけているという。