『山のお肉のフルコース』 有馬邦明著
ホンドシカのロースト。仔こヒグマのサラダ。ツキノワグマの脂のアイスクリーム……ジビエ料理の魅力と可能性が燦きらめくかのようだ。
なぜ料理の素材にジビエを駆使するのか。野生の動物を、「山の恵み」と謙虚に捉える著者の答えは極めて明快だ。
「日本の旬の料理だから」
本書は、自他共にジビエ料理のエキスパートと認めるシェフが、自身のジビエ料理とその背景を語った熱い一冊。
人脈を駆使し、日本各地の猟師から直接仕入れるのはヒグマ、エゾシカ、マガモ、イノシシ、アナグマ、ヤマドリ、キジ……一発で仕留め、適切な処理をほどこすプロの猟師に最大の敬意を払いつつ、みずからも解体を行いながら“肉の旬”を見極める。「自然なものだからこそ生じる個体差を、どうやって安定した料理として提供できるかが、大切」。この言葉に、シェフとして日々、気候風土との交歓を深め、ジビエと向き合ってきた自信と説得力を感じる。
シカもイノシシもアナグマも、シンプルで力強い料理に生かされて誇らしげだ。ジビエ料理とは、自然と人間との共存の証しだと教わる。
(山と渓谷社、1400円)