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国立公園 食べ尽くすシカ [北海道]

希少な動植物が生息する国立公園で、シカによる被害が深刻化している。

 絶滅危惧種の植物が食べ尽くされて植生が変わったケースもあり、環境省も駆除などの対策を本格化させている。ただ、駆除活動がほかの動植物に影響を与えないように配慮する必要があるなど、国立公園ならではの制約も多い。

絶滅危惧種も被害

 「シカが草を食べ尽くしてしまった」。雪に覆われた広大な湿原が広がる釧路湿原国立公園(北海道)。同省釧路自然環境事務所の寺内聡さんが、一角にある小高い丘を指さした。

 かつてはササに覆われていたという丘の頂上付近は、表土が露出し、中腹も植物はまばらだ。わずかに残されたササを、数頭のシカがのんびりとはんでいる。寺内さんは「強い雨が降ると、表土が湿原に流れ込んでしまう事態も考えられる」と心配する。

 ササだけではない。昨年には絶滅危惧種ヤチツツジが食害に遭ったことが初めて確認された。シカの通り道となっている場所では、地面が繰り返し踏みつけられて固くなり、植物が生えなくなった。

 同国立公園のシカは、1990年代から増え始め、2000年代に入るとこうした被害が至る所で見られるようになったという。

 北海道によると、道内のエゾシカの生息数は、2000年度は32万頭、13年度は56万頭と推計されている。

災害の懸念も

 同省による国立公園の調査では、全国の31公園のうち、20公園が「シカの被害を受けている」と回答した。

 同省によると、シカによる被害が特にひどいのは、世界自然遺産の知床(北海道)や尾瀬(新潟、群馬、栃木、福島)、南アルプス(山梨、長野、静岡)など15公園。知床では、食害が進んだ結果、シカが好まないアザミなどの植物が繁茂し、植生が大きく変わったという。南アルプスでは、この地域にしか生えないキタダケソウなど希少な高山植物が食べられ、群落単位で消滅の危機に直面。尾瀬では湿原のミズバショウが食い荒らされているという。

 「植物や樹木が食害で枯れて表土が露出し、地滑りなどの災害につながりかねない状態のところもある」。同省の担当者は危機感を募らせる。

「ならでは」の制約

 こうした事態を受け、同省は、国立公園でのシカ対策に本腰を入れ始めた。新年度予算案では、13年度の約2倍にあたる4億円の対策費を盛り込んだ。各公園の地元自治体などと連携し、シカの駆除に加え、行動の継続監視、生態系の変化の調査なども行い、シカに荒らされた植生の回復も図る。

 だが、釧路湿原の寺内さんは「国立公園ならではの難しさがある」と説明する。

 例えば、湿原にわなを設置する場合、貴重な植生を傷つけないため、地面に接しないような工夫が必要になる。さらに、湿原には特別天然記念物のタンチョウも生息しており、タンチョウ目当てに訪れる観光客も多いため、猟銃による駆除活動も難しい。

 こうした課題は他の国立公園にも共通しており、高山帯など駆除担当者が頻繁には足を運べない場所では、対策はさらに難しくなる。

 シカ増加の原因は諸説ある。駆除を担うハンター不足などのほか、地球温暖化で積雪期が短くなり、シカにとって生き延びやすくなったことが影響しているとの見方もある。

 シカの被害に詳しい自然環境研究センターの常田邦彦研究主幹は「全体としてシカが増えるペースに対策が追いついていない。被害を受けた自然の回復には時間もかかる。国立公園でも対策をスピードアップさせる必要がある」と話した。(井上亜希子)

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