対馬の希少チョウ シカ食害で絶滅危機 [長崎県]

離島・対馬に生息する「ツシマウラボシシジミ」が絶滅の危険にさらされている。増え過ぎたシカが、産卵や幼虫の生育に必要な下草を食い荒らすのが原因とみられる。再び乱舞させようと、地元の行政と地域、保護団体が一体となり、「チョウの里」の再生に取り組んでいる。
対馬市などによると、ツシマウラボシシジミは1954年、上県町かみあがたまち佐須奈さすな地区で研究者らに発見された。国内では対馬だけに生息する固有種で、愛好家の人気が高い。幼虫はヌスビトハギなどの下草を食べ、成虫は葉に卵を産み付ける。
かつては対馬市の上島一帯の杉林などに生息していたが、シカが増えて下草を食い荒らし、激減したとみられる。
2013年にNPO法人・日本チョウ類保全協会(東京)が市と行った分布調査では、シカの食害を免れていた生息地は1か所だけだった。シカは現在、市の人口とほぼ同じ約3万3000頭まで増えていると推定されており、協会は「このまま放置すると、絶滅する可能性が高い」と指摘する。
希少な地域資源を守るため、13年から市と協会、佐須奈地区の住民グループが生息地の再生活動を開始した。子どもの頃から昆虫が好きだったという市職員の久寿米木くすめき大五郎さん(38)は、ボランティアで採卵や幼虫飼育などに取り組んでいる。やっとの思いで卵を見つけ、羽化うかするたびに採卵場所周辺に放している久寿米木さんは、「自然界で繁殖して、普通に見られるチョウの里になってほしい」と願う。
住民グループ「もやいの会佐須奈」(約60人)も生息地とみられる森の一角に、シカを排除する金属製の柵(高さ2メートル)を設置。昨年の2か所に続き、今年3月には4か所に設置し、柵の総延長は約1・6キロになった。今後も柵を設置していくほか、ツシマウラボシシジミの生息に適した植物の種を採取・栽培し、柵内へ移植して生息地を再生する計画だ。
グループの日高光博会長(70)は「佐須奈で発見された誇りと飛ぶ姿の美しさで住民の愛着が強い。関係機関と連携しながら生息環境を復活させ、もう一度、乱舞する姿が見られるよう取り組みたい」と話している。
【ツシマウラボシシジミ】 体長約1センチ。雄の羽は光沢のある青紫色で、雌は黒褐色。羽の裏側はともに白色で、黒斑(星)がある。対馬のほか台湾や中国などにも分布する。旧上県町が1969年、町全域を繁殖地として天然記念物に指定し、現在は市全域が指定されている。環境省のレッドリストの絶滅危惧2類に分類されている。