道南でもエゾシカ被害深刻 電気牧柵で農業被害は減少 生息数は増化か[北海道]
「シカに踏まれて売り物にならない」。函館市小安町の野菜畑で、農業佐藤亘(とおる)さん(50)は皮がめくれ、黒ずんだキャベツを手に嘆く。15年前からシカが畑を荒し、年200~300万円の被害がある。「今年も状況が変わらなければ、ビニールハウスの施設園芸に切り替えようかと悩んだ」
同市は道南の市町の中でシカによる農業被害が顕著だ。佐藤さんら函館市亀田農協の組合員約30人は2011年9月に「鳥獣被害者の会」を結成。くくりわなの免許を取って畑にかけ、市に対策を求めてきた。
農家らの訴えを受けて、市は昨年度までで食害の多い市内東部に電気牧柵を計3・9キロ、高さ2メートルの鉄柵を計3・8キロ設置。その効果か、7年ほど前から目立っていた農業被害額は13年度で1260万円と、ピークの09年度から6割減。佐藤さんの畑も電気牧柵が設けられ、今年は被害額が前年を下回る見通しだ。
渡島管内全域でも、13年度の農業被害額(速報値)は約2千万円と09年度から半減している。管内の自治体や農協などは今年2月、「渡島地域エゾシカ対策連絡協議会」を設立。対策などについて情報共有を図っている。
ただ、函館では最近、従来ほとんど出没のなかった北部の石川町で食害が目立ち始めているという。佐藤さんは「電気牧柵はシカの行動経路を変えるだけ。頭数抑制の根本対策を考えなければ」と焦りをにじませる。市農林整備課も「市内での被害が減っている分、別の場所へ分散している可能性がある」とみる。
実際、生息密度の高い区域ではシカの影響が牧柵で囲われていない自然植生に及んでいる可能性がある。
知内町では町内に総延長55キロの電気牧柵を設け、農作物の被害額はここ数年、100万円程度で横ばいの状態。だが柵で囲われていない同町から福島町にかけての矢越岬周辺は越冬するシカが数多く集まり、森林の食害が深刻だ。ササなどが食べ尽くされ、山肌が露出して土壌流出が確認された箇所もある。町などは懸念を強め、今冬からわなによる捕獲を試みる予定だ。(田中雅章、本庄彩芳、大塚保)