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「ジビエの工房」手応え[愛媛県]

 松野町の猟友会メンバーが仕留めた野生のシカやイノシシの肉「ジビエ」が好調に売れている。農作物や森林を荒らす有害鳥獣を駆除し、その肉を過疎の町の特産品にしようという一石二鳥の取り組みだ。町内の施設で処理する肉の品質は上々の評判。県内外のレストランなどから注文が舞い込み、品切れになる時もあるほどだ。(大北恭稔)

 8月24日午前10時頃、メンバー最高齢の美国正夫さん(82)は軽トラックで松野町富岡の獣肉加工処理施設に乗り付けた。荷台には1頭のイノシシ。約30分前に、施設から3キロほど離れた山中でワナと猟銃で仕留めた獲物だ。待ち受けた山口孔明さん(34)が施設内に運び入れ、手早く解体に取りかかった。

 美国さんは、狩猟歴60年のベテラン。これまでにシカとイノシシを5頭ずつ駆除し、施設に持ち込んだ。サツマイモや稲を荒らされた経験もあって、「駆除すれば他の農家にも喜ばれる。元気な間は続けたい」と意気盛んだ。

 加工施設は、猟友会メンバーらでつくるNPO法人「森の息吹」が運営する。今年4月、松野町が旧ガラス工房の一部を改修し、6月に「森の息吹工房」として開業した。改修や冷凍庫の購入などにかかった費用は約3500万円。3分の1は国の補助金で賄い、残りは町が負担した。町は森の息吹を指定管理者とし、補助金を出すなどして支援する。

 取引先は松山市のほか東京や大阪にも広がり、レストランや飲食店など30軒を超える。8月9日に松山市大街道のロープウエイ街にイタリア料理店「リストランテ ミカニア」を開店した吉良一也さん(56)は、6月に工房を訪ねて、30キロのシカ肉を注文した。コース料理のメイン食材にしており、「初めて食べるお客さんからも『味にくせがなくておいしい』と好評ですよ」と太鼓判を押す。

 NPOの森田守会長は「夏はシカが脂がのってうまい。ロースが税抜きで1キロ3000円で、相場より1000~3000円も安い」と胸を張る。

 山口さんは、解体処理から取引先の開拓までを引き受ける。「口コミで少しずつ問い合わせが増え、予想以上の売れ行き。肉質の良さを皆さんがわかってくれている」と手応えを感じる。

 シカやイノシシの肉は、解体処理するまでの時間が短いほど、食べる際の獣臭さを抑えられる。狩猟経験の豊富なメンバーが、仕留めたその場で血抜きをし、短時間で工房に持ち込むからこそ実現できる品質で、山あいの町ならではの立地の強みでもある。

 順調な滑り出しを見せるジビエ事業だが、牛や豚などの畜産と違って肉の安定供給には課題を抱える。山口さんによると、引き合いの多いロース肉は1頭から数%分しか取れず、メンバーの多くが米の収穫などに追われるこの時期は、獲物が思うように入らないという。

 野生動物が資源のビジネスゆえの難しさだが、町農林課の藤薮享史主任(37)は「あえて安定供給は狙わなくても良いのでは」と話す。「できるだけ肉の確保に努めてもらいながらも、欲しい時に手に入らないことが、ジビエの付加価値のアップにもつながる。そういう視点も入れて、事業を展開してもらえたら」と森の息吹の今後に期待を寄せる。

 松野町はこれまで、金網や電気柵を設置して有害鳥獣が農地に入るのを防いだり、猟友会に依頼して銃やワナで捕獲したりしてきた。これにより、シカとイノシシを合わせた捕獲数は2011年度が878頭、12年度が588頭、13年度741頭に上る。農林産物の被害は緩やかに減少し、13年度は約26.8トンと、ピーク時の09年度(38.7トン)の7割に減った。

 一方、捕獲したシカやイノシシの処理は、町の難題となった。これまでは遊休農地などに埋めてきたが、高齢者が多い猟友会メンバーには重労働で負担が大きい。さらに、捕獲数が増えるほどに埋設場所の確保にも事欠くようになった。

 町は焼却施設の建設も検討した。しかし、重油代など維持費がかさむ上、迷惑施設として周辺住民が反発する恐れもあり、実現しなかった。

 有害鳥獣を駆除するほどに膨れあがる処理の問題。このジレンマを解消するのが、ジビエとしての有効活用だ。藤薮主任は「捕獲した獣の肉の販売が地域興しにつながり、獣害が減れば農家の支援になって一挙両得だ」と話す。

 
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