捕獲シカ、もっと活用へ 官民学の研究発表会[長野県]
捕獲したシカをもっと活用して、伊那谷の地域振興につなげようと、行政、民間団体、大学の3者が研究に取り組んでいる。16日、その発表会が南箕輪村であった。肉をジビエ料理として使うだけでなく、革や角、骨など体のほとんどを小物類などに使う試みが紹介された。県のジビエ振興の制度が実態に合っていないという指摘もあった。
発表会を開いたのは、森林に関わる国や県の機関や民間団体でつくる「伊那谷の林業を考える研究会」と信州大学農学部。
伊那市の半對屋雀斎(はんづいやじゃくさい)さん(35)は、地元で、皮革、角、骨、ひづめなどシカの体のほとんどを利用し、バッグや帽子、包丁の柄、ボタンなどに使う活動を紹介。「鳴き声と足跡以外はすべて利用している」と話し、「シカは産業になり得る。いろいろな利用の仕方を提案していきたい」と、地域興しにもっとシカを活用すべきだと強調した。
県諏訪地方事務所の山中徹也さんも、現在、取り組んでいる「すわしかプロジェクト」を紹介し、捕獲したシカの利用率を上げるべきだと主張した。山中さんによると、諏訪地域では昨年度、5002頭のシカが捕獲されたが、食肉として活用されたのは16%にとどまり、後はほとんどが埋められたり、焼却されたりしているという。
プロジェクトでは、食肉処理施設への支援やシカ肉のブランド化を目指しており、産業として軌道に乗せることで無駄に処分されるシカを減らしたいという。
泰阜村の地域おこし協力隊員の井野春香さん(26)も、都会の親子や若者が参加する狩猟体験ツアーや村内の主婦による皮革加工の産業化への取り組みを紹介した。
一方、信大農学部4年の河野卓朗さん(23)は県のジビエ振興政策の問題点を突いた。現在、「県のジビエ生産施設と流通」をテーマに卒業論文を執筆中だが、その取材のため、県内の9施設を訪ねる一方で、大勢のハンターから聞き取りもしたという。
その結果、県がジビエ振興のため、今年度から始めた「信州産シカ肉認証制度」は、実態に合っていないことが判明したという。ハンターが肉の解体者も兼ねていて、限られた季節稼働の場合は、大量生産ができず、安定的な流通量を確保したい専門業者の要求に応じられないためで、通年稼働で年間百~二百頭の処理が必要という。また、ハンターが比較的大手の解体者に肉を納入している場合は、すでに大手スーパーなどへの販路が確立していて、今さら県の認証を受ける必要がないケースが多いという。(関根光夫)