シカ肉の和製ジビエで町おこし 富士宮市や伊豆市 [静岡県]
富士宮青年会議所(富士宮市)は「ジビエの日」と銘打ち、シカ肉の創作料理を味わう食のイベントを開く。市の獣害対策でシカの捕獲が急増する中、狩猟の盛んな西洋のジビエ料理からヒントを得た企画だ。同じ獣害に悩む伊豆市は自前で食肉加工施設を整備し、伊豆ブランドの「おいしいシカ肉」で町おこしに取り組む。静岡の和製ジビエの息吹を紹介する。
■富士宮市、無料試食イベント
青年会議所(JC)主催の食のイベント「富士山ジビフェス」は3月1日、地元の浅間大社の門前広場で開かれる。
金岡さんが1人で創作料理の4品を手掛けた
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金岡さんが1人で創作料理の4品を手掛けた
無料で試食できる創作料理は4品で、このうちシカ肉を使った料理が3品。チーズを巻いた揚げ物と、トマト味で煮込んだイタリア風の「カチャトーラ」、中華料理でおなじみの「チンジャオロース」だ。イノシシ肉を使った「赤味噌ワイン煮込み」ともども250食ずつ、計1000食分を用意するという。
富士宮のご当地グルメといえば「富士宮やきそば」だが、JCメンバーの金岡元一さん(36)は「新たな町おこしの一歩にしたい」と話す。
今回の企画は市の農政課から持ちかけられた。
野生の鳥獣による農作物の被害額は、この3~4年で4割増えた。シカによる飼料作物の被害が甚大だ。新芽の時期になると何十頭もの群れが畑を荒らす。数字に表れない経済的損失もある。夜道を運転中の車との衝突事故が後を絶たず、「斜面の下草が食い尽くされ、土砂崩れが心配」といった声が聞こえる。
市は猟友会に協力を仰ぎ、猟銃やわなで年間500頭近くのシカを捕獲。ただ、ほとんどを産業廃棄物として山地にそのまま埋めて処分している。「地域でシカ肉を食す機会が増えれば、害獣駆除対策の励みになる」(農政課食のまち推進室)と、同じ獣害に悩むよその自治体の先行事例に倣い、JCと一緒に「ジビエ」の企画を練った。
金岡さんは地元で人気の居酒屋の2代目で、全レシピを考案。「家庭でも作れ、子どもたちの口に合う創作料理に仕上げた」とPRする。
■伊豆市は「イズシカ丼」PR
「イズシカ丼」は、伊豆市の山中などで捕獲されたシカの肉を食材とする創作料理の統一ブランド名だ。観光客相手の飲食店やホテル、旅館で計17のメニューが登場。文字通りの丼物もあれば、特産のワサビやシイタケ、旬の野菜と合わせた洋食や中華風もある。
冷凍保管する真空包装のシカ肉を手にする高山さん(左)と相原さん
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冷凍保管する真空包装のシカ肉を手にする高山さん(左)と相原さん
地元の精肉店を通じてシカ肉を提供するのは「イズシカ問屋」だ。4年前に市が約5800万円を投じて建設した食肉加工センターで、捕獲者からシカやイノシシを買い取り、食肉加工する。
シカ肉には「固い、臭い」のイメージがついて回る。しかし、最新の設備の解体作業や冷蔵・冷凍保管で「柔らかくて、おいしい」と評判のシカ肉を常時そろえる。
現場を預かる高山弘次さん(42)によると、年間800頭の受け入れを想定するセンターはフル稼働中で、「狩猟意欲を高めたい」との狙いは当たった。ただ、買い取り費用や人件費などの支出が肉の卸販売で得る収入を大きく上回り、赤字経営を強いられる。
今月初め、鳥取県で「日本ジビエサミット」が開かれた。獣害対策に頭を痛める鳥取では官民共同で和製ジビエの普及に取り組み、成果を上げている。伊豆市の農林水産課からは相原和真さん(24)が参加し、全国各地の事例を学んだ。「まずは地元の人たちにイズシカ丼をPRしなければ」と痛感したという。
シカ被害、増加傾向 狩猟人口の拡大急務
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静岡県によると、防止柵の設置などの対策が実り、農林産物の野生鳥獣による被害額は2009年度をピークに減少に転じた。しかし、シカの被害は再び増加の兆しで、シイタケなどのキノコ類やワサビなど「特用林産物」の被害額では8割を占める。えさ場を求めて生息域が拡大したことが背景にあるという。
県は対策強化の一環で、銃やわなを使った狩猟免許の試験を2月と8月の年2回に増やした。
2013年度の免許所持者は計約6600人で、前年より300人近く増えた。さほど経費がかからず、扱いやすいわな猟を自衛手段にしたい農林業者の受験が目立つという。ただ、免許所持者全体の7割近くが60代以上で、狩猟人口の裾野の拡大が急務だ。